SIer(エスアイヤー)はSI(システムインテグレーション)を行う企業として1990年代前後から登場し、大きな発展を遂げてきました。

官公庁はもちろん日本の大企業の多くがシステム開発をSIerに依頼し、SIerは日本のIT化に欠かせない存在として、大きな役割を担ってきました。

しかし2020年代に入り、SIerの将来性が疑問視されて「SIerの時代は終わった」という意見すら飛び交っています。

システム開発の世界で一時絶頂を極めたSIerに何が起こっているのでしょうか?そしてSIerは今後衰退の道をたどるのでしょうか?

ここではSIer業界の現状と改善するべき点を指摘しつつ、SIerそのものの将来は決して暗いものではないことを説明します。

またSIerで働くITエンジニアがキャリアを築く際に、気を付けるべきポイントや必要なスキルについても併せてご紹介します。

SIerとは?


SIerはSystem Integrator(システムインテグレーター)の略称です。

SIerはSI(システムインテグレーション)ビジネス、すなわちコンピュータ・システムの開発から運営・保守までを一括して引き受ける会社のことです。

SIerはシステムの企画・設計・開発・運営・保守のすべてに対応することができます。

SIerの多くは1980年代後半以降に生まれ、発展を遂げました。

そして2000年代前半のITバブル崩壊に伴い、日本企業の多くが自社でシステム開発をするのをあきらめ、SIerに丸投げするようになりました。

SIerの3つのビジネス領域


SIerは成立の経緯の相違によって、ユーザー系・メーカー系・独立系の3タイプに大別できます。

タイプの違いによって得意にしているビジネス領域も、それぞれ微妙に異なります。

ユーザー系


銀行・通信会社など、コンピューターシステムを使う立場にあったユーザー企業の情報システム部門が独立して生まれたSIerです。

親会社のシステム開発や運営・保守を担当して実力をつけながら、他社のシステム開発も請け負って業績を拡大してきました。

NTTデータ・伊藤忠テクノソリューションズ・野村総合研究所(NRI)などが、代表的なユーザー系SIerです。

メーカー系


自社でコンピューターを製造・販売していた、ハードウェアメーカーの情報システム部門やソフトウェア開発部門が独立して生まれたSIerです。

日立ソリューションズなどの日立系・NECシステムテクノロジーなどのNEC系・富士通系が代表的なメーカー系SIerです。

メーカー系SIerは親会社のハードウェアメーカを中心にグループを作り、大型案件に取り組んでいます。

子会社は親会社の下請業務が中心です。経営は安定し、給与など待遇も良い場合が多いです。

独立系


特定の親会社を持たないSIerです。

もともと計算センターや複写機業務といったシステム開発に近い業務を行っていたケースが多いです。

SE同士が集まって会社を設立した元ベンチャー企業の場合もあります。親会社を持たないのでしがらみがなく、自由な立場で活動できることが強みです。

大塚商会・トランスコスモスなどが独立系の代表的SIerです。

SIerの将来性が不安視される理由とは


SIerの将来性に関してはさまざまな予測がなされています。SIerの時代は終わったという意見もあれば、今後も大丈夫という意見もあります。

それはシステム開発の形態が2010年代に入って大きく変化してきたためです。

また後述するように、SIerは旧態依然の多重下請構造の上に成り立っており、生き残っていくためには変わらざるを得ない側面もあります。

クラウドサービスによる需要の減少


2010年前後からコンピューターシステムはそれまでのように、クライアントの要求に応じて最初から開発するものではなくなりました。

インターネットを通じて提供される、さまざまなクラウドサービスを組み合わせて利用する形態へと変化を遂げたのです。

いろいろなクラウドサービスが発表され、インターネットへの接続環境とブラウザさえあれば、それらを手軽に利用できるようになりました。

従来型のシステムはレガシー・システムと呼ばれ、新しく信頼性も高いクラウドサービスへ置き換わろうとしています。

これは、従来型のシステム開発とそれらのメンテナンスによって利益を得ていたSIerにとっては、大きな収入の減少につながります。

グローバル展開の可能性が低い


SIerは、多重下請構造のもとで展開しているビジネスです。その旧態依然としたピラミッド型の構造は、ITゼネコンと揶揄されることもあります。

仕事そのものを受注するのは大手SIerです。しかし大手SIerはそれをいくつかに分割して中堅SIerに割り振ります。

中堅SIerはそれをさらに分割して小規模SIerに割り振り、これがどんどん繰り返されて3次下請・4次下請に続きます。

このピラミッド構造は、さまざまな問題を抱えつつ続いているのですが、海外では通用しません。

そもそも海外ではSIerのようなビジネスがなく、それぞれの会社の情報システム部門が対応し直接対応しています。

SIerが将来的になくならない3つの理由


変革を迫られているSIerの事業形態ですが、SIerそのものは生き残るだろうという意見も多いです。

ピラミッドの底辺の零細IT企業はともかく、頂点に立つ大手SIerやそこから直接仕事をもらっている中堅SIerは、大丈夫というものです。

大手や中堅のSIerは優秀なITエンジニアを多数抱えており、下記の理由でまだ必要とされていると考えられています。

DX化推進によりシステムの需要が拡大している


多くの企業がより効率の良い企業経営を目指してDX(デジタルトランスフォーメーション)を実行に移そうとしています。

DXとはIT技術を使って業務のやり方を根本から改革し、より効率の良い企業システムを作りあげようというものです。

DXを実行するためには現在利用されている古いレガシーシステムを刷新し、新しい形態のシステムを作り上げなければなりません。

つまりDXによってシステム構築の大幅な需要増が見込まれており、SIerにとっても大きなビジネスチャンスがやって来ているのです。

大規模案件の需要が安定している


官公庁や金融機関の大規模システムに対応できるシステム開発業者といえば、やはりSIerでしょう。

SIerにとって官公庁や大企業は安定したパートナーかつ、官公庁や大企業の方でもSIerを信頼しています。

官公庁や金融機関が利用しているシステムは規模が巨大な上に、公共性が非常に高いシステムです。セキュリティの堅牢性も要求されます。

そのためこの種のシステムを、安直にクラウドサービスの組み合わせだけに置き換えるのは、適切ではないでしょう。

どのようにシステムを作り込んでも、独自に構築しないといけない部分は生じます。

そのような案件は定期的に発生し、SIerの安定した収入源になります。

蓄積されたノウハウ・技術に信頼がある


SIerがシステム開発の歴史に登場したのは1990年前後からです。それから約30年SIerが蓄積してきたノウハウや技術は膨大です。

官公庁や大手企業の主要なシステムがどのような仕組みで動くのか理解しているのは、SIerだといえます。

今後、どのようにシステムをアップデートするにせよ、SIerのノウハウなしでは新しいシステムは満足に稼働しません。

そのためSIerは、今後も行政や主要企業のシステム開発に関与を続けることになり、ノウハウはSIerに蓄積され続けます。

SIerとしてより将来性のあるキャリアを積むには?

SIerとそこで働くSE(システムエンジニア)が生き残るためのひとつの方法は、システムの上流工程の業務を担当することです。

そしてシステム上流工程の仕事としてあげられるのは、ITコンサルタントやシステム開発を統括するプロジェクト管理です。

ITコンサルタントとしての仕事を行う


システム開発の最上流の工程といえば、クライアント企業の経営課題を分析し、IT技術を使った解決策を提案するITコンサルタントです。

SIerのなかでITコンサルタントコンサルタントを業務の中心にしているところは多くありません。野村総合研究所がその代表格です。

コンサルティングが中心のSIerには、IT技術の深い理解と経営者が抱える問題を的確に分析するための経営知識やセンスが、同時に要求されます。

企業の経営活動そのものにIT技術が深く入り込んでいるなか、ITコンサルタントのできるSIerはますます必要とされています。

そのため大手や中堅のSIerの中から、今後ITコンサルタントの分野に積極的に関与する会社が出現しても、おかしくない状況です。

プロジェクト管理の仕事を行う


ITコンサルタントよりもっと現場に近いところで働きたい場合は、プロジェクト管理の仕事を引き受けましょう。

複数のSIerがチームを組んでひとつの案件に取り組むシステム開発の現場では、プロジェクトの進行を取り仕切るPMの存在が不可欠です。

PM(プロジェクトマネージャー)は進捗管理・予算管理・外注管理などを引き受け、チームを統率します。

PMは大手SIerの社員が担当するのが普通です。またPMはSEの次のステップとみなされています。

GeeklyReviewではより活躍できるキャリアを築くことができるSIerを、さまざまな口コミを通じて確認することができます。

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SIerに求められるスキル


SIerで働くのなら、ITエンジニアとしてどんなに優秀でも、ただパソコンに向かって作業をしているだけではいけません。

SIerで安定したキャリアを築くのに絶対に身につけておくべきスキルとして、コミュニケーションスキルマネージメントスキルがあげられます。

コミュニケーションスキル


SIerそしてそこで働くSEやプログラマーにとって最も必要とされるのは、コミュニケーションスキルです。

コミュニケーションといってもただ単に上司やチームの同僚と仲良くやって行くために、明るく面白く振る舞うスキルではありません。

彼ら彼女らとスムーズな意思疎通を図るために相手の意図を理解したり、相手に自分の考えを的確に伝えたりするスキルです。

ただ黙々と仕事をするだけではチームとして成果をあげる必要があるSIerの業務に、本当の意味で貢献したことにはなりません。

マネジメントスキル


SEを卒業してプロジェクトを管理するPMの立場になったらまず必要になるのは、マネジメントスキルです。

PMに要求される交渉力や統率力は、経験を重ねて身につけるものです。

そしてPMはリーダーとしての役割の他に、納期管理・予算管理・納期管理など、さまざまな計数管理にも携わります。

PMが勤まるほどの総合的なマネジメントスキルを持つ人材は、どこのSIerでも必要とされています。

SIer業界で働いている人のリアルな声を聞いてみよう


ITゼネコンのピラミッド構造だけでなく、年功序列で実力があっても給料がなかなかあがらないSIerの業務は、情報システム業界では一般に不評です。

しかし外資系など極端な実力主義の会社も、長く勤めることを考えると問題があると考える人もいます。

極端な成果主義のもとでは収入が安定せず、家庭を持つ年代になったら辛い一面があるようです。

さらに実力主義の会社では50代に入ると仕事が減って、退職に追い込まれて苦労する傾向があり、それが問題だといっています。

この年代ではSEとしての転職が難しくなり、仮に転職できても収入が大幅に減少します。

これに対して日本型のSIerでは50代にはいってもそれなりの地位と仕事が用意され、収入も落ち込むことがありません。

そしてよほど無能な場合は別ですが、退職に追い込まれるケースも少ないです。

長い目でみると、日本式年功序列型SIer極端な実力主義の会社の処遇は、それぞれ一長一短といえます。

どちらが良いと感じるかは、それぞれのITエンジニアの考え方次第です。

GeeklyReviewでは、さまざまなITエンジニアがさまざまなタイプのSIerを口コミで紹介しています。

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SIerの需要がなくなることはない


SIerのあり方とその将来性についてのさまざまな意見を紹介してきました。

SIerにはいろいろな問題があり、変革を迫られていることほ事実です。

しかしそれが「SIerは終わった」という短絡的な結論につながらないのも、恐らく事実でしょう。

ただしこれからSIerへの転職を考えるのなら、どのSIerが生き残るのかを選別する厳しい目が必須になります。

SIerならどこでも良いという時代ではありません。特に3次下請や4次下請しかできない零細SIerに転職することはおすすめできません。

待遇の面からもIT技術者としてのキャリアを伸ばす面からも、良い点がほとんどないからです。

転職するのなら、大手SIerや中堅SIerの中から候補となる会社を選ぶことをおすすめします。

SIerが活躍している企業一覧

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